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Peverelist / Jarvik Mindstate
Jan 09,2010 UP

Peverelist / Jarvik Mindstate

Punch Drunk
野田 努
x野田 努野田 努/Tsutomu Noda
1963年、静岡市生まれ。1995年に『ele-king』を創刊。2009年の秋に宇川直宏に活を入れられてweb magazineとして復刊させる。著書に『ブラック・マシン・ミュージック』『ジャンク・ファンク・パンク』『ロッカーズ・ノー・クラッカーズ』、石野卓球との共著に『テクノボン』、中原昌也『12枚のアルバム』、編著に『クラブ・ミュージックの文化誌』、『NO! WAR』など。

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 2009年の年末はiPodにしこたまダブステップを入れて、そして元旦はゆっくり時間をかけて帰省した。入れたのは、2652やキング・ミダス・サウンドのアルバム、〈ハイパーダブ〉や〈テクトニック〉のコンピといったその年のお気に入りから、比較的最近入手したイターナルの『メッセージ・フロム・ザ・ヴォイド』、クリプティック・マインズの『ワン・オブ・アス』、そしてペヴァーリストの『ジャーヴィック・マインドステート』の3枚で(もちろん、あの素晴らしいピンチのシングル「ゲット・アップ」も!)、ひとりで東海道を下りながらイヤフォンを低音で震わせていたというわけである。それで思ったのだけれど――これはあくまで個人的な感想だが――ダブステップは決してiPod向きではない! ハウスやテクノなどといったダンス・ミュージックと比較しても、言うまでもなくそれはより空間的で、ボディ・ソニックな音楽なのだ。ジャマイカのダブとクリプティック・マインドのダウンテンポをくらべても同様で、当たり前の話だが、イヤフォンではその周波数的な迫力が軽減され、ダブステップとしての快楽が半減する。そこへいくとインディ・ロックは実にiPod向きだ。ビーチハウスの新しいアルバムなどはこの再生装置のためにあるんじゃないかと思えるほど、見事にはまる。そう考えれば、ダブステップは"個人"で聴くことを拒む音楽だと言える(ピンチの「ゲット・アップ」なんかは「グッド・ライフ」そのものだし)。ブリアルだけが幅広く受け入れられたのは、あの音楽は"個人"で聴くことを許容する音楽で、その意味においてもまさに"レイヴ文化のレクイエム"だからだろう。

 だから僕はこの1ヶ月、家族(と下の階の人たち)には申し訳ないがイターナルの『メッセージ・フロム・ザ・ヴォイド』、クリプティック・マインズの『ワン・オブ・アス』、そしてこのペヴァーリストの『ジャーヴィック・マインドステート』を家で聴いている。新世代のブリストル主義者による最初のアルバムを。

 ペヴァーリストことトム・フォードは〈パンチ・ドランク〉を主宰している。これは2006年にブリストルに誕生したダブステップ・レーベルで、同郷の先駆的レーベル〈テクトニック〉、2008年に後続した〈アップル・パイプス〉らと並んでいまやブリストルのシーンを代表するひとつとなった。2562やマーティン、あるいはフライング・ロータスなどといったブリストルの外側とも積極的にアクセスする〈テクトニック〉や〈アップル・パイプス〉と違って、〈パンチ・ドランク〉はよりブリストルにこだわっているように見える。だいたいブリストルの古参=RSD(ロブ・スミス)のダブステップにおけるデビュー・シングルを発表しているし、ジェミーやグイードといった新世代の作品も出している。レーベルとしての最初のアルバムも、あたかも部活の先輩をたてるかのようにRSDのシングル集だった。とはいえ、〈パンチ・ドランク〉の音楽も他のレーベルと同様に、ポスト・ジャングルのブリストルを象徴する――ジャングル、ダブ、ガラージ、レイヴ、テクノのミニマリズム、それらのハイブリッド・ミュージックとなっている。

 アルバムはペヴァーリストの内面トリップさながら展開する。冒頭を飾る"Esperanto"が満場一致でベスト・トラックだろう。デトロイト色が強く(とくにURめいたストリングス)、彼の専売特許でもあるパーカッシヴなダウンテンポが心地よく響いている。ピンチの力を借りた"Revival"もダークなアブストラクト・ダブの傑作で、続く"Bluez"もまたダブの暗闇を飛行する。タイトル曲の"Jarvik Mindstate"は悪酔いしたミニマル・テクノといった感じで、そして"Yesterday I Saw The Future"ではこのジャンルが好むダーク・フューチャー=ディストピアを描ことする。深いベースラインとトライバルなビートはペヴァーリストの特徴のひとつだが、このトラックもその典型だ。"Not Yet Further Than"はDJなら深い時間にスピンしたくなるようなデトロイティシュなトラック、CDには12インチとして既発している(これもまたURめいたストリングスが印象的な)フリーケンシーなミニマル・トラック"Clunk Click Every Trip"も収録されている。

 ダブステップのディストピアめいたヴィジョンは、僕はきっと東京の街にはぴったり合うんじゃないかと思って、iPodに入れてみた。たしかに......合った。とくに、きれい事ばかり聞かされたときにこれほどカタルシスを与えてくれるジャンルもない。この音楽は、暗闇とは必ずしも忌み嫌うべきものではないということをあらためて教えてくれる(そのセンでいくとイターナルのアルバムが強力だったな~)。多少、魅力が軽減されたとしても、しばらくはiPodに入れておくつもりだ。

野田 努

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