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St. Vincent
Jan 30,2012 UP

St. Vincent@duo MUSIC EXCHANGE

Jan 10, 2012

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 厚い化粧と真っ赤な口紅、丈の短いドレスから覗かせた足元にはヒール靴、そして腕にはエレクトリック・ギター。数年前、US版『GQ』でのドレスアップしたインディ・ミュージシャンのフォトシュート企画で、デヴィッド・バーンとサンティゴールドとともにそんな姿でポーズをキメるセイント・ヴィンセントことアニー・クラークが自分のなかで強く印象に残っている。いよいよ彼女もアイコンめいたところにやって来たのだなとそのとき気づかされたのだが、と同時に、どこかがアンバランスなその立ち姿こそが彼女がひとの目を引きつける理由なのだと感じたのだ。それはそのまま複雑な形を持った彼女の音楽にも通じるところがあるのだが、演奏する姿はいったいどんなものなのだろう。その佇まいをどうしても見ておきたかった僕は、東京で一公演だけの来日に足を運んだ。

 ドラム、シンセ、キーボードをバックに携えたアニーはまさに、観客が期待していた姿で現れた。高いヒール靴とタイツにはどこか不釣合いに思えるエレキ、だが彼女自身はその両方が自分にとってのステージ衣装だと言わんばかりに落ち着き払っている。1曲目はスペーシーなイントロから"サージョン"。はじめギターにシールドを挿し忘れるミスがありヒヤッとさせるが、ひとたびギターのフレーズが差し込まれるとトリッキーな構造の楽曲が目の前で鮮やかに組み立てられていく。たとえばダーティ・プロジェクターズの名前がその比較に挙げられるような、やや少ない音数の絡み合い(あるいはすれ違い)の妙で耳を楽しませるセイント・ヴィンセントの楽曲だが、何よりもギターがその中心にあることが実際に目で見ると分かりやすい。曲の後半、捻じ曲がっていくシンセ・サウンドのなかでアニーによるギターが高音へとドライヴし、息を呑むテンションと高揚がもたらされる。
 続いて披露された"チアリーダー"の「でもわたしはもうチアリーダーになりたくないの」という歌詞が示唆的だが、他者(とくに男性からの視線)の期待に応えることのできない自分への葛藤がセイント・ヴィンセントの歌には内在しているように思える。だからと言って強く反抗的な態度を取ったり何かを強く主張するわけでもなく、ありがちな「等身大」の女性像にも逃げ込むこともない。いつもどこか居心地の悪そうな、「異物」としての存在感が彼女には備わっている。橋元さんがレヴューでミランダ・ジュライの名前を挙げていてなるほどと思ったが、たしかにジュライの監督作『君とボクの虹色の世界』にアニーが映っていてもおかしくはない。風変わりな人間が風変わりなままでお互いに折り重なっていく、そんな世界の住人の音楽であるように聞こえる。そうしたアニー自身の内側にある複雑さを、技巧を凝らしたギター・ワークやサウンドの多彩さで外側に軽やかに放り投げたのが『ストレンジ・マーシー』であったが、この日のライヴはまさに彼女自身のギター・プレイによっていくらかの生々しさを伴いながらその過程が再現されていた。
 曲間になると、バックでシンセを演奏するトーコ・ヤスダがMCの通訳をして観客を笑わせる場面もあった。そんな姿のアニーは紛れもなくチャーミングなのだが、艶っぽく流麗な歌声を聞かせたかと思えば突如として激しくギターをかき鳴らすし、ザ・ポップ・グループのカヴァー"シー・イズ・ビヨンド・グッド・アンド・イーヴル"ではドスのきいた声さえ聞かせてみせる。そこではアイコン的な完成度の高いクールさよりも、アウトプットがどうしても歪な形になってしまう危うさのほうが上回っていたように感じた。この日も演奏された"マロウ"における「ヘルプ・ミー」の呟きはおそらくは彼女自身の切実な悲鳴なのだろう。が、それがキッチュでごつごつした感触のエレクトロニック・ポップになってしまう回路のややこしさこそが、彼女から目を離せない理由だ。ライヴのハイライトのひとつであった"ノーザン・ライツ"で髪を振り乱しながらテルミンを荒々しく演奏し、そして終いにはブチ倒した彼女の内側の烈しさを、僕たちは歓声を上げつつもハラハラして見つめ続けるしかないのだ。
 だが、そこにはライヴならではの感情的な交感があったこともたしかだ。アンコールではアンニュイでドリーミーな"ザ・パーティ"で厳かな空気を作り上げ、ラストの"ユア・リップス・アー・レッド"でオーディエンスにダイヴしギター・ソロを弾くアニーを、東京の観客は文字通り「受け止めた」。アーティでカッコいい女、では済ませることのできないややこしさが彼女の音楽にはつねにあって、それと向き合うのは気軽なことではないだろう。だが、隠されたものが思いがけず外に飛び出してしまう様を目撃するようなスリルを伴ったその日のライヴは、どこか官能的な味わいすら含んでいたように感じられた。

木津 毅

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